本記事では、OTセキュリティの重要性、主要な各ガイドライン(NIST SP 800-82、IEC 62443、経済産業省ガイドラインなど)について解説します。
OTセキュリティガイドラインとは?
OTセキュリティガイドラインとは、運用技術(Operational Technology、OT)環境におけるサイバーセキュリティを確保するための指針です。OT環境とは、製造業、電力、交通、上下水道など、社会インフラや産業制御に用いられるシステムを指します。各OTセキュリティガイドラインは既に国内外で策定されています。
製造装置、発電設備、交通管制システム、水処理施設といった制御システムは物理的なプロセスと密接に結びついており、サイバー攻撃による被害は生産ラインの停止やインフラ機能の麻痺など、社会的・経済的に甚大な影響を及ぼす可能性があります。
IT環境と異なり、OT環境は長期稼働を前提としたレガシーシステムの存在や可用性を最優先とする運用方針が少なくありません。そのため一般的なITセキュリティ対策をそのまま適用しづらく、OTに特化したセキュリティ対策が求められています。
OTセキュリティガイドラインは、リスク評価や脆弱性の特定、対策の立案、対応手順の整備などを体系的に示すもので、企業がOTシステムを安全かつ効率的に運用するための支援ツールとして活用されます。
さらに、これらの指針に従うことで各国の法規制への対応やサプライチェーン全体の信頼性向上も期待できるのです。
なぜOTに特化したセキュリティガイドラインが必要なのか?
OT環境は24時間365日の稼働を前提として構築されており、運用中にセキュリティパッチを適用することが難しいケースも少なくありません。さらに、Windows XPなどサポートが終了したOSが今なお使用されている事例もあり、セキュリティホールが放置されやすい状況にあります。
加えて、OT機器の多くは外部とのネットワーク通信を前提とせずに設計されてきたため、近年のIoT化やリモート監視導入によるネットワーク接続によって新たなリスクが発生していることも事実です。たとえば、インターネット経由でマルウェアに感染し、制御システムが乗っ取られるといったケースも考えられます。
OTセキュリティは単なる情報漏洩にとどまらず、人命や環境、安全な操業に対して直接的かつ深刻な影響を及ぼす可能性があるため、ガイドラインに基づく適切な管理と対策が不可欠です。
OTセキュリティの現状と課題
OTとITの統合が進みIoTデバイスの普及やクラウド活用が広がるなかで、セキュリティの境界はより曖昧になっています。その結果、どの部分をどのように防御すべきかが把握しにくくなっており、セキュリティ対策の難易度は増しているのです。
加えて、多くの企業ではOTセキュリティの専門人材が不足しており、担当者がIT部門との兼務で対策を進めている場合も少なくありません。限られたリソースで最大限の防御力を発揮するには、体系的で実行可能なガイドラインに基づくアプローチが必須です。
主要なOTセキュリティガイドライン
OTセキュリティを実践的に強化するには、複数の主要なガイドラインを理解し、状況に応じて適切に活用することが重要です。
代表的なものとして以下が挙げられます。
NIST SP 800-82 | 工業制御システム向けセキュリティガイドライン |
IEC 62443 | 制御システムのライフサイクルにわたる国際的なセキュリティ規格 |
工場システムにおけるサイバー・フィジカル・セキュリティ対策ガイドライン | 経済産業省が策定した、工場の制御システムに対するサイバー攻撃への対策を示す指針 |
それぞれ異なる視点からセキュリティ対策を構成しており、企業の業種や規模、リスク許容度に応じて柔軟に選択し組み合わせて活用することが求められます。
NIST SP 800-82
NIST SP 800-82は、米国国立標準技術研究所(NIST)により発行された、工業制御システム(ICS)を対象とするガイドラインです。ICS固有のアーキテクチャや要件を考慮しつつ、リスクアセスメント、アクセス制御、ネットワーク分離、ログ管理、インシデント対応といった領域ごとに詳細な対策を提示しています。
米国の発電所、上下水道、石油・ガスパイプラインなど、多くの重要インフラ事業者がこのガイドラインを採用しており現場での運用例が豊富です。国際的にも広く参照され、他国のガイドライン策定にも影響を与えています。

NIST SP800-82r3に学ぶOT環境の特性とセキュリティ対応方法
「NIST SP 800-82r3」は、産業用制御システム(ICS)に焦点を当てたセキュリティガイドラインです。本ウェビナーでは「NIST SP800-82r3」を通してOT環境の特性とそれに適合する具体的なセキュリティ対策について解説を行います。
IEC 62443
IEC 62443は、国際電気標準会議(IEC)により策定された産業オートメーションおよび制御システム向けのセキュリティ規格です。セキュリティレベルを段階的に設定し、リスクに応じた対策を推奨する点が特徴です。
製造業や電力業界を中心に設計段階から保守までのライフサイクル全体をカバーしており、システムインテグレーターやベンダーにも義務的な対応が求められる場面が増えています。IEC 62443に準拠することで、サプライチェーン全体でのセキュリティ水準を統一しやすくなる点もメリットです。

重要インフラを守る!IEC 62443でICS/OTセキュリティ対策を強化
IEC 62443は、産業制御システム(ICS)やOT環境におけるセキュリティを確保するための「国際標準規格」です。 本記事では、IEC 62443の概要、構成、準拠のメリット、対応方法に加え、導入事例も交えて解説します。
経済産業省「工場システムにおけるサイバー・フィジカル・セキュリティ対策ガイドライン」
「工場システムにおけるサイバー・フィジカル・セキュリティ対策ガイドライン」は、経済産業省が、日本の製造業におけるサイバー攻撃への対応力強化を目的に2020年に策定したガイドラインです。2024年4月には、グローバルで加速度的に進む工場のDX化と、サイバーセキュリティリスク増加の現状を受けて、工場システムにおけるサイバー・フィジカル・セキュリティ対策ガイドラインVer1.0【別冊:スマート化を進めるうえでのポイント】が発行されました。
近年、製造現場ではIoTやAI導入が進み、ITとOTの統合による「スマート工場」が広がっていることから、この高度化により、サイバー攻撃によって物理的な被害(機器停止、品質不良、操業停止)が生じる「サイバー・フィジカル攻撃」のリスクが増加しています。そのため、本ガイドラインは、製造業が自社のリスクを認識し、適切なセキュリティ対策を講じられるようにする、また経営層から工場現場まで、それぞれの役割と必要な対策を明確化する
ことを目的に策定されています。
OTセキュリティ対策のベストプラクティス
OTセキュリティ対策を効果的に実施するためには、主要なガイドラインに基づいたベストプラクティスを理解し、実践することが重要です。
実践には、内外要件や業務、保護対象の整理、セキュリティ対策の立案と実行、さらに計画・対策・運用体制の継続的な見直しが求められます。こうした一連の取り組みを段階的に進めることで、企業はセキュリティリスクを最小限に抑え、持続可能なOT環境の運用を実現できます。
内外要件や業務、保護対象等の整理
OTセキュリティ対策を始めるにあたり、まずは内外要件や業務、保護対象を整理することが重要です。情報を整理することにより、どの資産が最も重要であり、どのようなリスクが存在するのかを明確にできます。
内外要件や業務、保護対象の整理は、以下のステップで進めましょう。
- 資産の特定
- リスク評価
- 優先順位の設定
まずは、システムやデータ、ネットワークなど、保護すべき資産をリストアップします。さらに、各資産に対する脅威や脆弱性を評価し、リスクレベルを判断してください。さらに、リスクの高い資産や業務を優先的に保護するための基準を設定しましょう。
こうしたステップを通じてセキュリティ対策の基盤を構築し、効果的な対策を講じるための準備を整えられます。
セキュリティ対策の立案
内外要件や保護対象の整理が完了したら、次にセキュリティ対策の立案に移ります。具体的なセキュリティポリシーや手順を策定し、実行可能な計画を作成するステップです。
セキュリティ対策を立案する際には、次のような要素について考える必要があります。
- ポリシーの策定
- 技術的対策の選定
- トレーニングと教育
まずは、組織全体で遵守すべきセキュリティポリシーを明文化しましょう。さらに、ファイアウォールやIDS/IPS、暗号化技術など、適切な技術的対策を選定します。OT担当者だけでなく、現場の従業員や経営層に対してセキュリティ教育を実施し、意識向上を図ることも必要です。
こうした要素を組み合わせることで、企業は包括的なセキュリティ対策を立案し、実行に移す準備を整えられます。
セキュリティ対策の実行、及び計画・対策・運用体制の見直し
セキュリティ対策の立案が完了したら、策定した計画に基づき具体的な対策を実施します。実行にあたっては、次のポイントを重視しましょう。
- 実施状況のモニタリング
- インシデント対応
- 定期的な見直し
セキュリティ対策の実施状況は、定期的にモニタリングし効果を評価する必要があります。また、セキュリティインシデントが発生した場合に備え、迅速な対応体制も整備しておかなければなりません。さらに、セキュリティ対策や運用体制を定期的に見直し、必要に応じて改善を行うことも必要です。
セキュリティ対策の効果を最大化し、継続的な改善を図るためには、これらのポイントを押さえながら継続的に運用する必要があります。
まとめ
OTセキュリティガイドラインは、物理インフラと密接に関わるOT環境をサイバー脅威から守るための重要な指針です。ITとは異なる特性を持つOTには専用の対策が必要であり、国内外の主要ガイドラインを理解・活用することが不可欠です。
資産の整理から対策の立案・運用・見直しまで段階的に取り組むことで、継続的な安全性の確保が可能となります。まずは自社の現状を把握し、自社に合ったガイドラインを選定・比較するところから始めましょう。
TXOneにまずお気軽にご相談ください。
製造業界のサイバーセキュリティ課題は常に変化しています。TXOneはお客様のサイバーセキュリティに関する課題について最適なOTセキュリティソリューションが提供できるよう、いつでもお手伝いさせていただきます。お問い合わせ内容を確認後、担当者より迅速にご連絡致しますので、お気軽にお問合わせください。