インシデント対応(Incident Response)とは?

 

 

インシデント対応(Incident Response)とは?

インシデント対応(Incident Response: IR)とは、組織のネットワークや情報システムに対して、サイバー攻撃やセキュリティ侵害(インシデント)が発生した際に、被害を最小限に抑え、迅速にシステムを復旧させるために取る一連の行動や体制のことです。

インシデントには、マルウェア感染、不正アクセス、情報漏洩、サービス停止など、組織のセキュリティポリシーに違反するあらゆる事象が含まれます。
インシデント対応は、事後に場当たり的な対応を行うのではなく、事前に計画された手順(インシデントレスポンスプラン)に基づいて、体系的に実施されます。この計画と訓練を行うチームをCSIRT(Computer Security Incident Response Team)と呼びます。

 

インシデント対応が必要な理由

高度化したサイバー攻撃は、もはや完全に防ぐことは不可能であるという認識が広まっています。インシデント対応は、この「侵入を前提としたセキュリティ対策」の中核をなす要素です。

  1. 被害の最小化:インシデント発生直後の初動対応が遅れると、攻撃者にネットワーク内を横移動(ラテラルムーブメント)され、被害が全社に拡大したり、機密情報が大量に窃取されたりする可能性があります。迅速な対応は被害を局所化します。
  2. 法規制・コンプライアンスの遵守:個人情報保護法や各種業界規制に基づき、情報漏洩やサイバー攻撃が発生した際には、速やかに当局や関係者への報告が義務付けられています。体系的な対応プロセスは、これらの義務を果たすために不可欠です。
  3. 信頼の維持:インシデントが発生しても、適切かつ迅速に対応し、透明性をもって情報公開を行うことで、顧客や取引先からの信頼回復につながります。

 

インシデント対応の主要なプロセス(NIST基準)

インシデント対応のプロセスは、アメリカ国立標準技術研究所(NIST)などの機関によって標準化されており、一般的に以下の4つのフェーズで構成されます。

 
1. 準備 (Preparation)

  • インシデントレスポンスプランの策定、役割分担の明確化(CSIRT体制の構築)。
  • 必要なツール(EDR、フォレンジックツールなど)の導入と整備。
  • 対応手順の訓練(机上訓練、シミュレーション)を定期的に実施する。

 
2. 検知と分析 (Detection and Analysis)

  • ログやセキュリティツール(EDR、IPS/IDSなど)のアラートを監視し、インシデントの発生を特定する。
  • 攻撃の起点、侵入経路、影響範囲、被害の深刻度を迅速に分析し、対応の優先順位を決定する。

 
3. 封じ込め、根絶、復旧 (Containment, Eradication, and Recovery)

  • 封じ込め (Containment):感染端末のネットワークからの隔離、不正アクセスの遮断などにより、被害の拡大を阻止する。OT環境では、制御プロセスの安全性確保が最優先。
  • 根絶 (Eradication):システム内に残っているマルウェア、バックドア、不正な設定など、脅威の痕跡を完全に排除する。
  • 復旧 (Recovery):影響を受けたシステムをクリーンな状態に戻し、本稼働を再開する。

 
4. 事後対応 (Post-Incident Activity)

  • 対応プロセス全体の記録と文書化を行う。
  • 教訓(Lessons Learned)をまとめ、対応の改善点や、再発防止のためのセキュリティ対策強化点を洗い出す。

 

OTセキュリティにおけるインシデント対応の特殊性

OT(制御技術)環境でのインシデント対応は、IT環境とは異なる独自の制約と優先順位が求められます。

  1. 最優先事項が「安全」と「可用性」:OT環境では、システムを停止させずに、あるいは安全な状態で停止させることが、情報漏洩の防止よりも優先されます。誤った対応は、制御ミスによる物理的な事故につながる可能性があります。
  2. 封じ込め手段の制約:OT機器はリアルタイム性が求められるため、ネットワークを安易に切断すると生産停止につながります。そのため、マイクロセグメンテーションなどの技術を活用し、ピンポイントでの隔離や通信制御を行う必要があります。
  3. フォレンジックの困難さ:レガシーOSや低スペックな制御端末が多く、IT環境と同じEDRツールやログ収集ツールを導入できないことが多く、インシデントの痕跡特定が困難になる場合があります。

 

まとめ

インシデント対応は、サイバー攻撃が避けられない現代において、組織の事業継続性を担保するための生命線です。
特にOTセキュリティにおいては、インシデントが物理的な被害に直結するため、OT環境の特性を理解した特別な対応計画が必要です。システムの可用性を守りつつ、レガシー機器の制約下でも迅速に脅威を特定し、封じ込める能力が求められます。

TXOne Networksは、OT環境の特性と制約に合わせたインシデント対応の「準備」と「実行」を支援するセキュリティソリューションを提供しています。これにより、産業システムのインシデント発生時のリスクを最小限に抑え、迅速な事業復旧に貢献します。

 

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