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5Sは“サイバーセキュリティ”にも効く?現場の安全衛生文化から始める情報セキュリティ

Aug 20, 2025

【OT Huck】5Sは“サイバーセキュリティ”にも効く?現場の安全衛生文化から始める情報セキュリティ
執筆者:西尾 麻里
プロダクトマーケティングマネージャー

こんにちは。プロダクトマーケティングマネージャーの西尾です。
今回は「5S」の考え方をサイバーセキュリティにも応用できないか考えてみたいと思います!

 

 

製造現場の「当たり前」、5S

5Sは現場の合言葉

製造現場の「当たり前」として根づく5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)。
安全衛生・品質を守るうえでの基本として、多くの企業で取り組まれています。

あらためて整理すると、5Sとは:

  • 整理:要るものと要らないものを分け、要らないものを捨てる
  • 整頓:必要なものをすぐに使えるようにしておく
  • 清掃:常にきれいにし、異常を早く発見できるようにする
  • 清潔:整理・整頓・清掃を維持する
  • しつけ:決められたルールを守れるよう習慣づける

こうして並べると、ごく単純で当たり前のように見えます。
しかし、現場の一人ひとりが、これを毎日、丁寧に続けていくのは実際にはとても難しいことです。

実は私自身、5Sの重要性を身にしみて思い知った経験があります。

 

5Sの大切さを身にしみて学んだ日

設計エンジニアとして新卒で入社した半導体メーカーでは、配属前に3ヶ月間のクリーンルームでの現場研修がありました。
そこで最初に、徹底的に叩き込まれたのが「5S」でした。

任された最初の仕事は、エアピンセット(※1)を使い、手作業でウェハ(※2)をキャリア(※3)間で移しかえるという作業。
これは、クリーンルームでの重要スキル「ウェハハンドリング」に習熟するためのトレーニングでもあります。
メンターからは「ウェハは非常に繊細で高価。とにかく慎重に!」と、耳にタコができるほど繰り返し注意を受け、当初は大変緊張したものです。

  • ※1:エアピンセット
    空気圧を利用して、手を触れずにウェハを吸着・移動させる装置。繊細な表面を傷つけずに取り扱うために使用される。吸引用の長いチューブが付属し扱いにはコツがいる。
  • ※2:ウェハ
    半導体製品の基板となる円形の薄いシリコン板。微細な電子回路が加工される。非常に高価かつ壊れやすい部材。
  • ※3:キャリア
    ウェハを安全に搬送・収納するための専用トレイ。クリーンルーム内での工程間移動などに使われる。

キャリアに格納されているウェハ

現場では、すべての作業用具に「あるべき場所」が決められています。
ある日、ピンセットのチューブがいつもより長く机の上に出ているのに気づきました。が、「まあ大丈夫だろう」とそのまま作業を開始。
結果、絡まったチューブが作業の妨げとなり、ウェハを机の上に落としてしまったのです。
幸い割れはしなかった(割れたら大惨事)ものの、貴重なウェハの一枚がスクラップ行きに…。

「あのとき、気づいていたのに―」

5Sは単なる整理整頓のお作法ではなく、“事故を未然に防ぐための仕組み”なのだと、身を持って痛感した出来事でした。

 

その「気づき」を、サイバーリスク管理にも活かせないか

日々の業務の中で、「なんとなく使っているPC」「管理状況が曖昧な機器」「中身が不明なメディア」など、小さな“乱れ”に気づくことがあります。
それは物理的なゴミでも危険物でもありませんが、現場の衛生を乱すホコリのように、気づかぬうちにセキュリティの弱点になっているかもしれません。 デジタルの世界でも、“机の上に長く出ているチューブ”のような状態が、思わぬサイバーセキュリティ事故につながるのです。

そんなときこそ、現場で慣れ親しんだ5Sの考え方が役に立ちそうです。

5S項目 サイバーセキュリティへの応用例
整理 不要な端末・データ・ソフトの管理
整頓 安全なデバイス管理の仕組みづくり
清掃 セキュリティ対策の定期的な実施
清潔 アップデートや不要ファイルの削除
しつけ 従業員の意識向上と現場への浸透

 

現場向け「サイバー5S」チェックリスト

以下は、日々の点検や作業前に使える簡易チェックのアイデアリストです。
すべてを行うことは難しくても、まずは「気づく・整える」ところから始めてみませんか?

【整理】

  • 放置されたPC・USBメモリがないか
  • 不要なソフトやファイルが作業端末に残っていないか
  • 使用者不明な機器はないか

【整頓】

  • 各端末の用途・使用者が明確か
  • データ保存先が整理されているか
  • 情報の持ち込み・持ち出しにルールがあるか

【清掃】

  • 定期的にマルウェアチェックを行っているか
  • 使用ログや設定確認が定期的に実施されているか
  • 外部接続端末の状態をチェックしているか

【清潔】

  • ソフトウェア・OSが最新状態に保たれているか
  • 古いデータやソフトを適切に削除しているか
  • 一時使用デバイスの取り扱いに配慮しているか

【しつけ】

  • 情報機器の使い方や注意点を現場で共有できているか
  • 新人にもわかる手順書やフローが整備されているか
  • セキュリティの話題を日常的にできる雰囲気があるか

 

まとめ:「5S=現場を守る衛生文化」を、サイバーにも

製造現場で根付いてきた5Sの取り組みは、単なる整理整頓の習慣ではありません。
「安全」と「衛生」を保つための文化的な土台として、品質や安全を支えてきました。
異物の混入や汚染を防ぐための点検や清掃は、現場では当たり前の「基本動作」として定着しています。

この「衛生」の考え方は、実はサイバーセキュリティにも通じます。
見た目には問題がなくても、気づかない“ノイズ”や違和感の裏にリスクが潜んでいる。
だからこそ、デジタルの世界でも目に見えない脅威を「持ち込まない」
「使う前に検査する」という丁寧な対応が大切です。

「デジタルの衛生=サイバーハイジーン」を意識し、
日々の小さな点検や習慣を積み重ねること。
それが、現場と同じように、クリーンで安全なデジタル環境を守る第一歩になるのです。

 

関連情報

閉域網内の端末やスタンドアロンPC、外部からの持ち込みデバイスは、セキュリティ対策の“衛生管理”が行き届きにくい領域です。

TXOne Elementシリーズは、ネットワークにつながらない機器や一時的に持ち込まれる媒体を対象に、マルウェアの可視化や検査を行うことで、そうした“見えにくい汚れ”を洗い出し、現場のデジタル衛生を保つお手伝いをします。

 

 

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